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2021/04/01 00:15


これまで120カ国以上を巡り、世界各地の奇妙な光景を撮り続けている写真家・佐藤健寿さん。ベストセラーの写真集『奇怪遺産』(エクスナレッジ)シリーズやTBS系人気バラエティー番組『クレイジージャーニー』の出演で、注目を集めています。
そんな佐藤さんに、過酷な現地取材で体力や精神力を保つためのヒントをうかがいました。 

旅中は、「変えない」「よく寝る」を意識している

――国内外で撮影の旅を続ける中で、体調や体力、精神力を保つためにしていることはありますか?

撮影する国や地域によって環境が変わるので、自分でコントロールできることに関しては「変えるものを減らす」ことを心がけています。

一番は食事。その土地土地のおいしい食べものやお店を調べて食べに行くのが普通ですが、僕は和食屋を探します。普段から食べているものを食べる、変えない、ということです。例えば、フランスでムール貝を食べた翌日に具合が悪くなったとします。それが、ムール貝のせいなのか、時差ボケなのか水が合わなかったからなのか、何が原因なのかがわからない。アフリカなどより過酷な環境になればなるほど、トラブルがあったときに原因がわからなくなるのです。極端な話、初日は何も食べなかったり、日本から持ち込んだカップラーメンを食べたりすることが多いですね。寂しい話ですが(笑)。

食べないこともテクニックです。抵抗力が落ちると、僕はまず胃にダメージが出る。体調が悪くなると「栄養をとらないと」と無理してでも食べる人もいますが、僕はあえて食べないで内臓の負担を減らす。休ませることを優先します。そして何より体を休ませ、抵抗力をつけるのは、寝ることだと思っています。

――海外では簡単に寝られない状況も多いのでは?

そうですね。パプアニューギニアでは、一応「ロッジ」とうたってはいたものの、行ってみたら小屋ですらない、もはやただの木の枠だったことが(笑)。蚊の大群がライトに引き寄せられ集まってきて、何万匹もが「蚊柱」を作り、まるで亡霊のようにゆらゆらとうねっていました。蚊帳は貸し出されるものの穴だらけ。それを補修し、蚊取り線香を5つぐらい並べて結界を作ってなんとか寝たものの、日本に帰国したら肘(ひじ)から下に謎のじんましんが出てしまって。原因がわからず病院を転々としましたが、結局、南京虫という吸血虫に刺されていたようです。本当に寝るのもサバイバルです(笑)。

――逆に、忘れられない快適な眠りの経験はありますか?

ベネズエラに世界で一番雷が多発する地域があり、そこに取材に行ったときのこと。水上の集落で、人々は湖上に浮かべた板の上に家を建てて暮らしていました。雷待ちをしていたとき、村人がハンモックに揺られて昼寝をしているのを見て、さぞ寝にくいだろうと思いながら僕も寝てみたら、これがすごく気持ち良くて。大自然に囲まれ、鳥のさえずりを聞きながら、何とも言えない包容感と浮遊感が絶妙でした。

撮影時にピークを持っていくため、それ以外の時間はとにかく休む

――旅先では寝床を確保するのも一苦労なんですね。過酷な場所で眠るときはどのような工夫をしていますか?

特に工夫はしていませんが、寝ないと過酷な撮影に耐えられなくなるので、移動中はとにかく寝るようにしています。飛行機でも車でも。テレビのロケでスタッフと一緒だと、みんな車窓からの風景を眺めたりしていますが、僕はどんなに絶景でも寝る。「淡白だよね」とあきれられることも(笑)。耐えず充電していないと不安で、モバイルバッテリーを常につないでいる心境に似ているかもしれません。
僕はアスリートではありませんが、撮影の場所に到着したときにピークを持って行きたい。そのために、極力消耗を減らし、休めるときは細かく休む。旅の経験から得た術かもしれません。

――その「充電」が睡眠?

そうですね。睡眠が一番だと思います。食べられないのは耐えられるけど、寝られないと体だけでなくメンタルもきつくなる。

旅だけでなく、原稿を書いたり写真の整理をしたりといった仕事が重なることもありますが、どんなに忙しくても7~8時間は寝るようにしています。以前は原稿がなかなか書けないと夜中じゅう頑張っていたこともあるけれど、朝までかかって何とかでっち上げた原稿が、あとから読んだらひどい内容だったりして(笑)。そんなこともあって、切羽詰まっても無理しないで寝るように。すると翌日の午前中のパフォーマンスがいい。夜中に5時間かけて書けなかった原稿が、30分でかけたりする。体力だけじゃなく、集中力のピークがコントロールできるようになったように感じています。

――睡眠に関して何か習慣はありますか?

ないですね。それも旅と関係していて、たとえば「毎朝コーヒーを飲む」といった習慣を作ってしまうと、それが旅先でできなかったときに不安に感じてしまうかもしれない。「ホテルの部屋には左足から入る」とか旅先のジンクスがある人もいますが、僕にはそれもない。睡眠に関しても同じで、習慣やジンクスを作らないようにしています。

睡眠に限らず、環境が変化する中で何か特別なメソッドを持つこと自体が違う気がしていて。究極を言えば、自分自身が柔軟で鈍感で図太くなるしかない。環境が変わるからこそこだわりを捨てる。旅を続ける中で自然とそうなってきたように思います。

よく眠れることで幸福度がアップする

――寝具についてお聞かせください。

職業柄、いつも重たい機材を担いでいて腰や肩に負担がかかっているので、寝具が合わないと翌日必ず痛くなります。旅先では仕方がないのですが、苦手なのが大きすぎる枕。海外のホテルで大きな枕一つしかないときは、地道にタオルを重ねて枕代わりに。ほとんどのもの選びに関して「大は小を兼ねる」と思いますが、枕に関しては真理ではないようで(笑)。

自宅では、たしか誰かからのプレゼントでいただいたテンピュール®のオリジナルネックピローを使っています。いい枕は首や肩を自然に支えてくれるし、使う人の形に合わせてくれる感じがします。マットレスも初めて体験しましたが、すごく寝心地がいい。テンピュール®が推奨している睡眠姿勢「Zero-G® ポジション」は、ベネズエラで味わったハンモックの心地よさに似ていて驚きました。

よく寝る時間を削って仕事するという人がいますが、「寝ている時間は無駄な時間」だと思っているのかなぁ、と。でも本来、寝ることは人間の本能的な行動で、何より眠るのって幸せですよね。よく眠れる人生というのは、多分、すごくいい人生ですよ(笑)。寝具って「ただ寝るだけ」と思ってつい軽視しがちですが、実は人生で一番長い時間を過ごすところかもしれない。だからこそ、そういう部分にきちんとお金をかけて生活すると、幸福度が増すんじゃないかなと思います。

――これからの活動についてお聞かせください。

最近、日本を撮影する機会が増えています。これまでさんざん世界を撮ってきたからこそ、ようやく日本を自分なりに世界と相対化して見られるようになってきたように感じていて。もう少し日本は撮っていきたいと考えています。

最近あらゆるコンテンツがインバウンドをすごく意識しており、写真も例外ではありません。特に若い写真家は、海外の人が日本を見る視点で撮る人が多い。浅草の雷門や富士山をあえて撮影する、みたいな。そうしたある種の流行がある中で、「いい写真」と「『いいね!』されるための写真」がわからなくなってきている。ある写真がたくさんの「いいね!」を集めると、みんな同じ場所に行き、同じ画角の写真を撮って、それがSNSのタイムラインに大量に並ぶという現象が起きている。多くの人が好む写真はきっとある意味では「正解」なんだけど、人と違う自分だけの「正解」を探すことが難しい時代なのかなと思います。

本当に「いい写真」と「いいね!される写真」の違いはなんなのか? そんなことも考えながら、僕なりの「いい写真」を追い求めていけたらと考えています。

(文・中津海麻子 写真・中田健司)

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